「忘れる」という事。

仲の良いご夫婦

これはユキネコが働き始めて間もない頃のお話です。

当時働いていた施設は、働きに行かれる方から介護サービスによって生活が成り立っている方まで、色々な方が住んでいる所でした。

ユキネコはそこで、事務関係や入居者様に呼ばれた際に必要な対応を行うといった仕事をしていました。

一人暮らしの方もいましたが、ご夫婦での入居も数組いました。

その中に、O様という夫婦が住んでいました。

お二人共80歳を過ぎており、奥様はその時点で認知症が見られていましたが、旦那様が献身的に支えて日々の生活を送っていました

時々喧嘩する事はあっても、笑顔で過ごしていた姿が今でも印象に残っています。

旦那様の変化

時間の経過と共に奥様の認知症が少しずつ進行していき、旦那様の介護負担が増えてきている様子が見られていました。

決して泣き言を言う方では無かった為、様子を見守りながら時折声を掛ける等して対応をしていました。

そんなある日、O様夫婦の部屋から呼び出しがありました。

部屋についてドアを開けた瞬間、ユキネコにおはぎが飛んで来ました

一瞬戸惑いつつも、どうやら旦那様が投げた物が当たった様でした。どうしたのか声を掛けると、旦那様は感情的になり落ち着かない様子で、直ぐには話が難しい状態。

その横で奥様はニコニコして旦那様を見ており、更に旦那様がヒートアップしてしまうといった状態でした。

・・・新社会人のユキネコとしては、なかなかな修羅場でした。

奥様には部屋の少し離れた所で待機をお願いし、時間を掛けて旦那様に落ち着いていただき、やっと話が出来る様になってきた時に旦那様が言いました。

頭がおかしいんだ。昨日まで分かっていた事が今日は分からなくなってしまう。

どうしちゃったんだ俺は。怖いよ。

そんな風に泣きながら話していました

奥様の介護量が日々少しずつ増えていっている中で、反比例する様に自身が思う様にお世話が出来なくなってきているという状況。

長年一人で献身的に妻を支え、二人での生活を送ってきた旦那様の気持ちを考えると、これだけでもとても辛くもどかしい気持ちがあると思います。

それに加え、隣で見てきた奥様の認知症という病気に、今まさに自身も侵され始めている。昨日まで出来ていた事・理解していた事柄が、今日は出来ない・分からないといった状態になってしまう事が、どれ程の恐怖なのか。

当時のユキネコは、ただただ旦那様の話を聴く事しか出来ませんでした。

その後O様夫婦は共に認知症が進行していき、ご家族様の希望もあり他施設へと入所となりましたが・・・

旦那様・奥様、それぞれ別の施設へと入所していきました。

その後の経過は分かりません。

ただ、どこかのタイミングでご夫婦が一緒に過ごせる時間を少しでも持つ事が出来ていれば良いな・・・と、当時のユキネコは思っていました。

忘れる事

ここまでが一つの事例になります。

当時のユキネコは働き初めて間もないという事もあり、認知症の進行している方は実習等で対応した事はありましたが、症状が見られ始め日々進行していく様子を目の当たりにした事は初めてでした。

その為、自分自身もいつかこうなるのかな・・・といった、恐怖心を抱いた覚えがあります。

認知症は様々な種類があり、症状や進行具合も様々です。

ただ、誰しも今の自分達の様に人生を歩んできた経過があり、それは例えその方自身が思い出せなくなってしまったとしても、決して消えはしないという事。

この経験は、ユキネコが相談業務を行う上での考え方の一つとして、今でも必ず意識している部分になります。

しっかりとその方の話を聴き、その方の人生を少しでも共有出来れば・・・なんて事を、日々考えています。

今回は「忘れるという事」に関して書かせていただきました。

少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。

それではまた。



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